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名古屋地方裁判所 平成元年(ワ)2816号 判決 1993年2月26日

原告

水谷サチヲ

水谷栄之

右訴訟代理人弁護士

太田耕治

渡辺一平

被告

中部電力株式会社

右代表者代表取締役

松永亀三郎

右訴訟代理人弁護士

高橋正蔵

河瀬直人

主文

一  原告らの主位的請求をいずれも棄却する。

二  原告らの予備的請求中、被告が、別紙物件目録二記載の土地について、賃借権以外の占有権原を有しないことの確認を求める部分につき、右訴えをいずれも却下する。

三  被告が、本件二土地について、地中送電線埋設を使用目的とする賃借権を有しないことを確認する。

四  訴訟費用は、これを五分してその一を被告の、その余を原告らの各負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(主位的請求)

1 被告は原告らに対し、別紙物件目録二記載の土地(以下「本件二土地」という。)の地下に埋設してある電線を収去して、本件二土地を明け渡せ。

2 訴訟費用は、被告の負担とする。

3 仮執行宣言

(予備的請求)

1 被告が、本件二土地について、地中送電線埋設を使用目的とする賃借権その他何らの占有権原を有しないことを確認する。

2 訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

(主位的請求)

一  請求原因

1 訴外亡水谷栄治郎(以下「亡栄治郎」という。)は、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件一土地」という。)を所有していた。

2 亡栄治郎は、昭和四四年八月二六日被告に対し、本件一土地中の一部である本件二土地を、次の約定で賃貸し引き渡した(以下亡栄治郎と被告との右賃貸借契約を「本件契約」という。)。

(一) 使用目的 地中送電線埋設用地

(二) 期間 昭和四四年八月二六日から昭和六四年八月二五日までの二〇年間

(三) 賃料 年額四〇一六円

なお本件契約締結後、昭和五〇年に増額され、年額八〇三二円となった。

(四) 契約終了時の処置

本件契約が期間満了により終了したときには借主(被告)は、自己の費用と責任で本件二土地の原状回復を行い、すみやかに貸主(亡栄治郎)に返還する。

3 被告は、昭和四四年ころ本件二土地の地下に電線(以下「本件送電線」という。)を埋設した。

4 亡栄治郎は、昭和六一年九月一九日死亡し、原告らが本件二土地の所有権及び本件契約の賃貸人の地位を相続した。

よって原告らは被告に対し、本件二土地の所有権又は本件契約期間満了に基づき、本件二土地の地下に埋設してある本件送電線を収去して、本件二土地を明け渡すことを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実はすべて認める。

三  抗弁

1(原告らの所有権に基づく請求に対し)

請求原因記載の本件契約の成立及び原告らの賃貸人の地位の相続。

2(原告らの賃貸借終了に基づく請求に対し)

(一) 亡栄治郎と被告とは、本件契約において、所定の期間満了の六箇月前までにいずれかから何らの意思表示もないときは、さらに本件契約を二〇年間延長するものとし、以後この例による旨約した。

(二) また亡栄治郎と被告とは、本件契約締結に際し、いずれかの当事者が本件契約の期間満了に当たり前項により更新を拒絶するには、特段の事情を要する旨の合意をした。

3(原告らの各請求に対し)

(一) 本件送電線設置当時、本件二土地は利用価値のない荒れ地で、本件送電線は、堅固な構造で埋設されており、本件送電線は、特段の事情がない限り、使用途中に移設・撤去することは予定されておらず、そのため、亡栄治郎と被告とは、本件契約締結に際し、本件契約は当然に更新されるものと認識していたのみならず、客観的にも、万一移設工事をすれば、その費用が多額になるほか、被告の昌栄変電所への唯一の送電線であり、送電の停止や周辺の交通への障害など、四日市臨海工業地帯を含む地域一帯に及ぼす影響は甚大である。

(二) 本件二土地の周辺地域は、四日市市条例により、建築基準法四八条六号の「準工業地域」「公害規制地域」の適用を受ける地区として指定された第二種特別工業地区で、JR関西線とJR塩浜線に挟まれた無道路地のため車両の出入りを前提とする利用は困難な土地であり、原告らにおいて、経済的・事実的観点から有効な利用はできない。

(三) 本件送電線は、地下3.4メートルに埋設されており、本件一土地全体を原告らが使用収益するとしても、利用に関し特段の弊害とはなっていない。

(四) 被告は、原告らに対し、三年分の賃料を供託し、本件送電線の重要性について説明して理解を求め、賃料を増額することにより本件契約の存続を希望する旨申し入れ、原告らから要求があってからは、買受けの申入れ、代替地の提供をするなど、誠実に交渉を継続した。

(五) 原告らは、被告の申入れを拒否し、昭和六三年一一月一八日ころ到達の書面により被告に対し、本件契約を更新しない旨の通知をしたが、本件二土地自己使用の必要性等として主張するところは、車庫、倉庫を造る、JRから買い受ける土地の代替地とするなど二転三転し、具体性を欠き、また被告が価値において本件二土地を上回る代替地の提供をしても、不当に高い要求をし、すべてこれを拒否したものである。

(六) 以上の事情の下では、原告らの所有権の行使、賃貸借終了に基づく返還請求権の行使、更新拒絶はいずれもその権利を濫用するものであり、また本訴請求自体も権利の濫用である。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1の事実は認める。

2(一) 同2(一)の事実は認めるが、その効果は争う。

なお原告らは、昭和六三年一一月一八日ころ到達の書面により被告に対し、本件契約を更新しない旨の通知をした。

(二) 同(二)の事実は否認する。

本件契約において、更新を拒絶するには、特段の事情を要する旨の合意が存するとすると、民法の定めた賃貸借存続期間の制限を、特段の立法もないにもかかわらずせん脱することになり、かかる合意は無効である。

3(一) 同3の事実のうち、本件二土地の周辺地域が第二種特別工業地区で、本件二土地がJR関西線とJR塩浜線に挟まれ公道には接していないこと、本件契約の期間が満了するころ、被告と原告らとの協議がなされたこと、そのころ被告が原告らに対し三年分の賃料を供託し、被告から代替地の提供の提案があったこと、しかしながら前記のとおり原告らがこれを拒否し、本件契約を更新しない旨の通知をしたことは認めるが、本件送電線が堅固な構造で、地下3.4メートルに埋設されていることは不知、その余の事実は否認する。

(二)(1) 本件契約に際し、権利金等の支払はなされず、またその賃料は、契約当時も、その後も不当に低廉になっており、本件二土地の固定資産税税額にも及ばず、しかも被告は、右賃料の支払を一年分怠るなど、本件契約すら誠実に履行しようとしない。

(2) 本件二土地はJR四日市駅に近く、地価の上昇の著しい場所で、利用価値の高い土地である。

(3) 原告らは、亡栄治郎から相続により、本件契約の賃貸人の地位を相続したものであり、本件契約が締結されていることを知って、これを奇貨として本件二土地を買い受けた者とは同列に扱われるものではない。

(4) したがって、原告らの所有権の行使、賃貸借終了に基づく返還請求権の行使、更新拒絶、本訴請求は、何ら権利の濫用に当たるものではない。

(右(二)の事実に対する被告の認否)

本件契約に際し、権利金等の支払がなされなかったこと、被告が賃料の支払を一年分怠ったことがあったこと、原告らが亡栄治郎から相続により本件契約の賃貸人の地位を相続したことは認めるが、本件契約に基づく賃料が本件二土地の固定資産税税額にも及ばないことは不知、その余の事実は否認する。

五  再抗弁―抗弁1に対し

請求原因記載の本件契約の期間満了

六  再抗弁に対する認否

再抗弁事実は認める。

七  再々抗弁

抗弁2と同旨

八  再々抗弁に対する認否

抗弁2に対する認否と同旨

(予備的請求)

一  請求原因

1 亡栄治郎は、本件一土地を所有していた。

2 亡栄治郎は、昭和四四年八月二六日被告との間において、本件一土地中の一部である本件二土地につき、その期間を二〇年とする本件契約を締結した。

3 亡栄治郎は、昭和六一年九月一九日死亡し、原告らが本件二土地の所有権及び本件契約の賃貸人の地位を相続した。

4 被告は、本件契約が終了してはいないとして、本件二土地につき地中送電線埋設を使用目的とする、本件契約に基づく賃借権その他の占有権原を有する旨主張する。

よって原告らは、主位的請求が認容されないときには、被告が、本件二土地について、地中送電線埋設を使用目的とする賃借権その他何らの占有権原を有しないことの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

被告が本件二土地について賃借権以外の占有権原を有する旨主張していることは否認するが、その余の請求原因事実はすべて認める。

三  抗弁

1 主位的請求三2と同旨

2(一) 被告は、本件契約締結後、昭和四四年ころ本件二土地の地下に本件送電線を埋設した。

(二) 主位的請求三3(一)ないし(五)と同旨

(三) 以上の事情の下では、原告らの賃貸借終了の主張、更新拒絶はその権利を濫用するものであり、また本訴請求自体も権利の濫用である。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1の事実につき主位的請求四2と同旨

2(一) 同2の事実のうち、被告が本件契約締結後昭和四四年ころ本件二土地の地下に本件送電線を埋設したことは認める。その余の事実については主位的請求四3(一)と同旨。

(二)(1) 主位的請求四3(二)(1)ないし(3)と同旨

(2) したがって、原告らの賃貸借終了の主張、更新拒絶、本訴請求は、何ら権利の濫用に当たるものではない。

(右(二)の事実に対する被告の認否)

主位的請求四3(二)(右(二)の事実に対する被告の認否)部分と同旨

第三  証拠<省略>

理由

第一主位的請求について

一請求原因事実はすべて当事者間に争いがなく、抗弁2(一)の事実(ただしその効果については争いがある。)及び同3に係る事実中、本件二土地の周辺地域が第二種特別工業地区で、本件二土地がJR関西線とJR塩浜線に挟まれ公道には接していないこと、本件契約の期間が満了するころ、被告と原告らとの協議がなされたこと、そのころ被告が原告らに対し三年分の賃料を供託し、被告から代替地の提供の提案があったこと、しかしながら原告らがこれを拒否し、本件契約を更新しない旨の通知をしたこと、本件契約に際し、権利金等の支払がなされなかったこと、被告が賃料の支払を一年分怠ったことがあったこと、原告らが亡栄治郎から相続により本件契約の賃貸人の地位を相続したことは当事者間に争いがない。なお原告らの請求は、所有権に基づく請求も本件契約終了に基づく請求と重複する関係にあるので、以下においては、本件契約終了に基づく原告らの請求につき判断する。

そして前記当事者間に争いのない事実並びに<書証番号略>、証人西村清、同青木重雄の各証言並びに原告ら各本人尋問の結果を総合すると以下の事実が認められる。

1  被告は、昭和四四年ころ、四日市臨海工業地域内にある被告の昌栄変電所に対する送電線を設置する必要性が生じ、そのためJR関西線、JR塩浜線(ただし当時はいずれも国鉄線)及びこれらに挟まれた本件二土地等の地下に送電線を埋設する計画を立て、そのため本件二土地を含む本件一土地所有者である亡栄治郎に対し、本件二土地を賃貸しするよう求めた。

2  被告は、当時、鉄塔用敷地を求めるときには当該土地の所有者と交渉し、右土地を買い受けることを、また空中に高圧電線を通すときには地役権を設定することを原則としていたが、本件では、地下数メートルに送電線を埋設するのみであって、地上の土地使用を何ら妨げるものではないことから、賃貸借契約を締結する方式で亡栄治郎と交渉した。

3  亡栄治郎は、土地売買等に明るく、競売手続に参加したり、他人の売買、賃貸借を仲介等することもあったが、被告の申入れに対し全面的に協力することとなり、更に本件二土地の隣地で同様に送電線を埋設する対象となっていた土地が亡栄治郎の妹所有の土地であることを知るや、すすんで被告のために、右隣地所有者と被告との賃貸借契約締結に協力した。

4  なお本件二土地を含む本件一土地は、前記のとおり鉄道線路に挟まれ公道に接してはおらず、また登記簿上の地目は田で、かっては耕作をしたこともあるが、伊勢湾台風で塩水に冠水したこと等から耕作を中止し、現況は荒れ地で、亡栄治郎も全く使用していなかった。

5  このようにして締結された本件契約においては、その期間は、民法六〇四条を考慮して、締結日である昭和四四年八月二六日から昭和六四年八月二五日までの二〇年間と定めたが、なお所定の期間満了の六箇月前までに、契約当事者のいずれかから何らの意思表示もないときは、さらに本件契約を二〇年間延長するものとし、以後この例による旨定めた。

6  なお被告は、右賃貸借期間につき、民法の規定から前記のとおり定めたものの、当該送電線を半永久的に埋設する意図であり、当然に右契約は更新されるもので、亡栄治郎もこれに応じるものと信じていた。

7  また本件契約においては、被告は、その必要がなくなったときには期間満了前でも解除することができる旨の規定はあったが、貸主である亡栄治郎については、これに対応する規定はなかった。

8  被告は、そのころ所定の計画に従い、本件送電線を埋設したが、右工事は、地上の開さくのできないJR各線(当時の国鉄線)地下及び本件二土地の一部地下は深さ三メートルの位置をヒューム管とモルタルで固めて、本件二土地の残部地下は深さ3.4メートルの位置をコンクリート等で固めて、多数の送電線を埋設するというものであり、その工事概要は亡栄治郎にも説明されていた。

9  本件契約において賃料は、年額四〇一六円とされていたが、事情に応じたその増減も約されており、昭和五〇年九月九日には年額八〇三二円に増額された。

10  また右賃料は、三年毎に三年分を初年度の八月三一日までに支払うこととされ、これら賃料増額及びその支払に関しては、昭和六二年までは全く問題なく推移した。

11  ところが被告は、たまたま亡栄治郎の死亡(昭和六一年九月一九日)した翌年である昭和六二年八月の支払に当たり、右支払を失念し、原告らの抗議で昭和六三年に至り、賃料の支払をした。

12  被告は、昭和六三年の右賃料支払に当たり、前記約定に従い、昭和六二年分から昭和六四年分(つまり昭和六五年八月二五日までの分)までの賃料を支払う意思であったところ、原告水谷サチヲがそのころから、前記賃貸借期間満了後直ちに本件二土地の返還を求めるとして、昭和六三年分(つまり昭和六四年八月二五日までの分)までの賃料しか受領しないとしたため、被告は取りあえず右金額のみを支払った。

13  原告らは、本件二土地相続後、前記のとおり昭和六三年ころから、賃貸借期間満了後の返還を求めるようになり、同年一一月一八日ころ、本件契約の更新を拒絶し、賃料受領を拒否する旨の通知をしたが、これに対し被告は、賃料増額により原告らの意向にそう解決を図ることを検討した。

14  しかし原告らは、被告に対し、本件二土地に車庫を設置する、あるいは倉庫を設置する等述べ、強く本件二土地の返還を求めたが、現実にはこれらの設計図等は作成しておらず、したがって右図面等を示すようにとの被告の要望には応じることができなかった。

15  そして被告は、原告らが本件契約の更新を拒絶する旨の通知をした昭和六三年一一月一八日の前後ころ及び本訴提起後、合計四箇所の代替地を示し、本件一土地との交換や買受け等を提案したが、原告らはこれを拒否した。

16  なお本件一土地の平成元年八月一日における時価は三三一万五〇〇〇円相当であり、被告提案の前記各土地は、その後の地価の推移を考慮しても、格段に開きはないものであった。

17  被告は、前記のとおり原告らが更新を拒絶し、賃料の受領を拒否する旨の通知をしたことから、平成元年八月二八日、同月二六日から平成四年八月二五日までの賃料相当額である二万四〇九六円を供託した。

18  ところで、前記のとおり、本件二土地に隣接し、亡栄治郎のあっせんで賃貸借契約の成立した土地については、その所有者との間に賃貸借契約の更新が成立しており、本件二土地を除き、本件送電線を引き続き埋設することにつき、被告と他の土地所有者等との間に問題は全くない。

19  また本件二土地はJR四日市駅には近いものの、現在、四日市市条例により、建築基準法四八条六号の「準工業地域」「公害規制地域」の適用を受ける地区として指定された第二種特別工業地区となっている。

20  そして本件二土地は前記のとおり鉄道線路に挟まれ公道に接してはいないことから、前記車庫、倉庫を建設することはもちろん、駐車場として利用することも困難な位置にある。

21  ところで、被告が本件送電線につき移設工事をすると、その費用は約三億円を要し、また右工事期間中、前記四日市臨海工業地域への送電停止や、本件二土地がJR四日市駅に近いことからその周辺の交通への障害も当然予想される。

二1  そこでまず本件契約中の賃貸借期間の定めにつき検討する。

本件契約においては前記のとおり、その期間が二〇年間と定められてはいるものの、所定の期間満了の六箇月前までに、契約当事者のいずれかから何らの意思表示もないときは、さらに本件契約を二〇年間延長するものとし、以後この例による旨定められている。しかしながら、民法六〇四条の立法趣旨、他の特別法の制定の経緯等考慮するならば、民法六〇四条の規定する期間の定めは絶対的なものであり、その期間満了により、別途期間満了時における明示、黙示の更新がない以上、当該賃貸借契約は当然に終了するものと解するのが相当である。したがって被告主張に係る、更新拒絶の意思表示の必要性(なお本件では、仮に右意思表示が必要であるとしても、前記のとおりなされている。)、右意思表示についての特段の事情の必要性は全く問題とならず、また右意思表示自体につき権利濫用も問題となることはなく、これらについての被告の右主張は失当といわなければならない(なお本件契約につき黙示の更新は被告の主張するところではないが一応検討する。本件では前記のとおり期間満了直前の昭和六三年一一月一八日ころ、更新拒絶等の通知がなされ、しかも期間満了直後の平成元年九月二六日、本訴が提起されるなど、更新について原告らから少なくとも黙示の異議があったことは明らかである。そして右異議自体についての権利の濫用も一応検討の余地があるが、前記民法六〇四条の立法趣旨、他の特別法の制定の経緯等考慮するならば、後記の権利濫用に関する諸事実を考慮したとしても、少なくとも本件では右異議自体が権利の濫用に当たるものと解することはできないものというべきであり、したがって本件では、民法六一九条所定の黙示の更新もなされなかったものと解すべきである。)。以上によれば、本件契約は平成元年八月二五日の経過をもって期間満了により終了したものと解される。

2  そこで次に賃貸借終了に基づく返還請求権の濫用(及び所有権に基づく明渡請求権の濫用)につき判断する。

前記事実によると、本件送電線は、四日市臨海工業地域内に多量の電力エネルギーを供給するための変電所に対する送電線設置の必要性から設置されたもので、その公共性は極めて高いこと、しかもそのための多数の送電線をJR線地下等に埋設することから、当然に堅固、恒久的施設にせざるを得ず、被告においては当初から長期の契約関係を期待しており、そのため前記契約延長に係る条項も定めており、これらのことは貸主側にも説明されていたこと、また他の土地所有者等は被告に協力し、更新に合意しており、他方被告が付け替え工事を実現することは多大の困難を伴い、被告にとって本件契約更新の必要性は極めて高いことが認められる。

そしてまた前記によれば、被告は、このような本件契約の必要性から、貸主との間の本件契約に基づく賃料増額、賃料支払については昭和六二年八月の支払を除いて誠実に応じており、現在も必要な賃料増額には応じる用意があること、また原告らが賃料の受領を拒否していることから、賃料相当額を供託していることが認められ、これらによれば、被告が本件契約を誠実に履行していることは明らかである(なお原告らは、本件契約において賃料が不当に低廉で本件二土地の固定資産税税額にも及ばない旨主張するが、右事実は本件全証拠によってもこれを認めるに足りないし、前記事実に照らすと仮に右のとおり現状では低廉であったとしても、原告らが右事実を具体的に主張し増額を求めた場合には被告が直ちにこれに応じることは明らかであるので、原告ら主張の右事実は必ずしも重視されるべきものではない。)。

他方、前記によると、本件二土地を含む本件一土地は、鉄道線路に挟まれ公道に接してはおらず、車庫、倉庫を建設することはもちろん、駐車場として利用することも困難な位置にあり、亡栄治郎も田として耕作することもなく荒れ地として放置していたこと、また第二種特別工業地区となっていること、本件契約に基づく被告の本件二土地使用の方法は、地下数メートルの位置に本件送電線を埋設するというもので原告らの地上の使用を何ら妨げるものではないこと、そしてこれらのことから、土地売買等に明るかった亡栄治郎が、本件契約締結につき、借主側には、その必要がなくなったときには期間満了前でも解除することができる旨の規定を置くものの、貸主側については、これに対応する規定を置くことは強く求めてはおらず、したがって貸主である亡栄治郎側からの期間満了前の解除申入れは予想されていなかったものと解されること、そして原告らも地下数メートルの位置に埋設されている本件送電線の収去を受けた上で、車庫、倉庫建設等をする具体的な予定は有していないことが認められ、これらによれば、原告らにとって本件契約終了に伴い本件送電線の収去を受けて本件二土地の返還を求める必要性は高くないものと解される。

さらに本件交渉に当たっては、前記によると、被告は、原告らから本件二土地の返還を求められるや、賃料増額により原告らの意向にそう解決を図ることを検討し、その後原告らに対し本件一土地とほぼ同価値と考えられる代替地の提供や、本件一土地の時価による買取りを申し出るなど被告は原告らに対し誠実に交渉をしたこと、他方原告らは、被告に対し、現実にその予定を有してはいないにもかかわらず、本件二土地に車庫、倉庫を設置する等述べ、強く本件二土地の返還を求め、被告からの代替地提供についても、不動産鑑定士の評価を得る等特段の客観的事実を示すことなく本件一土地の時価が被告評価以上のものであることを主張するのみで被告の提案を誠実に検討することはしなかったことが認められ、これらによれば原告らの交渉については誠実な態度が欠如していたものと解すべきである(なお<書証番号略>によると本件一土地近辺がJR四日市駅周辺の都市再開発等で相当程度地価が変動する可能性があることが認められるが、具体的に本件一土地の地価にどの程度反映されるかは明らかではない。)。

そして以上検討した、本件送電線設置の公共性、各契約当事者の契約時及び現在における本件二土地についての使用の必要性、被告の本件契約遵守の態度並びに各契約当事者の本件契約終了時に際しての交渉の誠実性その他本件認定の諸事情を考慮するならば、原告らの本件契約の期間満了に基づく本件二土地返還請求(及び所有権に基づく明渡請求)は、原告らの権利の濫用に基づくものといわねばならず、したがって右請求は許されないものといわねばならない。

第二予備的請求について

一原告らの予備的請求中、被告が本件二土地について賃借権以外の占有権原を有する旨主張していることは本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。したがって右部分に係る訴えは、確認の利益を欠き不適法といわねばならない。

二次に、原告らの予備的請求中、その余の部分については、請求原因事実はすべて当事者間に争いがなく、また第一において認定、判断した事実、経緯に照らすと、確認の利益も、これを肯定することが相当であるものと解される。そして前記によれば、本件契約は期間満了により(更新することなく)終了していることが認められ、他方原告らの、収去明渡しを求めない、単なる賃貸借終了の主張、本訴請求が権利の濫用である旨の事実は本件全証拠によってもこれを認めるに足りないものといわねばならない。

第三以上によれば、原告らの主位的請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、予備的請求中、被告が、別紙物件目録二記載の土地について、賃借権以外の占有権原を有しないことの確認を求める部分は不適法なので右訴えをいずれも却下することとし、その余の部分は理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官北澤章功)

別紙物件目録<省略>

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